タイトル

土井さんの「野山の花と蝶を訪ねて」

私がこれまでに訪ねた野山で出会った花や蝶たちを、思いつくままに紹介していきます。 今回は「マルバノキ」を紹介します。

【№16】マルバノキ(丸葉の木)
       マンサク科マルバノキ属
       学名 Disanthus cercidifolius

  • 本州(中部、近畿、広島県)と四国(高知県)に隔離分布する日本固有種です。 マルバノキ属の植物は世界的に見ても極めて種類が少なく、 日本のマルバノキの他には中国大陸に1変種(D.c. var.longipes)が知られているのみです。 紅葉が美しく、花も面白いので植物園や庭園に植えられていることがあります。 金剛山や岩湧山でも見られますが植栽の様です。 近畿では滋賀県のみに自生地があります。 分布域がかぎられた珍しい樹ですが自生地では個体数は多く、 長野県の木曽谷を訪ねた時に渓流沿いにマルバノキがみごとに群生しているのを見ました。
  • 晩秋(10~11月)に赤く紅葉した葉と花と前年の実をほぼ同時に見ることができます。 葉がハート型で丸い形をしていて「丸葉の木」と名付けられています。 葉の形は、中国原産のマメ科植物のハナズオウの葉に似ています。
  • 葉腋にドクダミに似た独特の臭いのする花が2つぴったりと背中合わせになって咲きます。 花は紅色で、5枚の花弁が星状に開いて、ヒトデにも似ています。 花の色からベニマンサクとも呼ばれます。 裏の花と重なってみえるので花弁が10枚の様にも見えます。 花弁の内側に雄しべが5本(葯が2個ついている)、先端が二股に分かれた雌しべが見えます。 雄しべから花粉が出る前に雌しべに花粉がついています。 雌しべが先に成熟する雌性先熟の花です。 晩秋にどんな虫が受粉にくるのか観察しているとハチよりもハエやアブが沢山やってきます。 臭いのせいでしょうか。種子は翌年の秋に熟します。
  • 早春に黄色の花を咲かせるマンサク(Hamamelis japonica) やシナマンサク(Hamamelis mollis)は、同じマンサク科ですが、 属は異なっており、マンサク属とされています。 花は一見よく似ていますが、花弁はとんがらず4枚です。 また背中合わせではなく二股にわかれて咲きます。
  • マルバノキの紅葉の葉と赤い花は、晩秋の日差しの中で一緒に輝いています。

(2013年10月)


写真1 マルバノキの花(中央の花の白く見える雌しべの柱頭が2股になっている。 その周りに、10個の赤い葯が見えるがまた花粉をだしていない。 :大阪市立大学理学部付属植物園 11月下旬)
マルバノキ1

写真2 マルバノキの花(花粉を出していない葯が6個、花粉をだした葯が4個みえる。 花弁は5枚であるが裏の花の花弁も重なって見えている。 花の右下に見えるのが蕾。:大阪市立大学理学部付属植物園11月下旬)
マルバノキ2

写真3 夏にすでに色づいているマルバノキの葉(長野県木曽郡上松町赤沢自然休養林:群生が見られる。 7月下旬)
マルバノキ3

写真4 マルバノキの果実(蒴果に2本の柱頭が残っている。長野県木曽郡上松町赤沢自然休養林)
マルバノキ4

写真5 シナマンサクの花(花弁が4個で香りの良い中国原産の花:栃木県三毳山植栽2月下旬)
シナマンサク

撮影と解説者紹介:

土井 雄一(どいゆういち) ・・ FIO会員

土井さんの写真 小学校時代から昆虫採集を始め、蝶を求めて各地の野山を訪ねる中で、 花の美しさにも魅せられて写真撮影に熱中。 森林インストラクター。