土井さんの「野山の花と蝶を訪ねて」
私がこれまでに訪ねた野山で出会った花や蝶たちを、思いつくままに紹介していきます。 今回は「ホシミスジ」を紹介します。
【№8】ホシミスジ(星三条)
タテハチョウ科イチモンジチョウ亜科ミスジチョウ属
学名 Neptis pryeri
- 国内では、本州、四国、九州(宮崎県が南限)、海外では中国、アムール、朝鮮半島、 台湾等に分布している蝶です。 東日本では、山で見られる高原の蝶ですが、西日本では、平地でもみられます。
- 翅には、同じミスジチョウ属のコミスジ(N. sappho)等とよく似た、3条の白斑がありますが、 本種は、前翅表面の最前列の白斑が不連続で、 後翅裏面の付け根付近に星状の黒点が現れることから区別できます。 この黒点が名前の由来です。
- 翅を開いたまま、時折ばたきながら滑空するイチモンジチョウ亜科に特徴的な飛び方をします。 とまるときも翅を開いたままが普通です。
- 最近の研究で、日本国内のホシミスジは、生態や斑紋の違い等から、5亜種への分類が提案されています。 本州中部以北亜種(N. p. iwasei) 1)、 と近畿、中国、四国、九州地方に分布する瀬戸内亜種(N.p.setoensis) 2)の2亜種と、 局地的に分布する四国東南部山地亜種(N.p.hamadai)、隠岐諸島亜種(N. p. yodoei)、 と最近追加された紀伊半島山地亜種(N.p.kiiensis)3)の5亜種です。 亜種の違いは、DNAによる解析も進められており3)、今後の研究の進展に期待がかかります。 DNA解析は、植物の分類でもおなじですが、 従来から行われてきた形態を主とする分類と異なる結果がでてくる場合があり話題になることがあります。 分類・進化の解析に必須な有力なツールとなっています。
- 大阪でみられるホシミスジは、瀬戸内亜種です。 瀬戸内亜種は、翅の白斑が太くはっきりしている部分があるのが特徴です。 食餌植物は、バラ科シモツケ属のシモツケ、コデマリ、ユキヤナギ等です。 以前、大阪では、かなり稀な種でしたが、近年人家周辺や公園などで良く見られるようになりました。 ユキヤナギなど園芸植物を食べるのでこれらが植栽されている公園などを探すと割合簡単にみつかります。 以前からのホシミスジの産地で生産された苗木に幼虫がついたまま 公園等で植栽されて分布が広がったのかもしれません。 一方コミスジは、マメ科のクズ、ハギなどが食餌植物ですが、 郊外の山に行かないとみられません。
- 市街地の公園でみられる高原の蝶が、大阪のホシミスジです。
1) H.Fukuda et al, Trans.Lepid.Soc.Japan 50(2)93-103(1999)
2) H.Fukuda et al, Trans.Lepid.Soc.Japan 51(1)29-43(2000)
3) H.Fukuda et al, Trans.Lepid.Soc.Japan 60(4)245-251(2010)
(2012年6月)
写真1:ホシミスジ(堺市 大仙公園 :翅の表)
写真2 ホシミスジ(堺市 大仙公園 後翅裏の付け根の黒い星に注目)
写真3 コミスジ(堺市 鉢ヶ峯)
撮影と解説者紹介:
土井 雄一(どいゆういち) ・・ FIO会員
小学校時代から昆虫採集を始め、蝶を求めて各地の野山を訪ねる中で、 花の美しさにも魅せられて写真撮影に熱中。 森林インストラクター。