土井さんの「野山の花と蝶を訪ねて」
私がこれまでに訪ねた野山で出会った花や蝶たちを、思いつくままに紹介していきます。 今回は「ムラサキツバメ」を紹介します。
【№11】ムラサキツバメ(紫燕)
シジミチョウ科ムラサキジジミ属
学名 Narathura bazalus turbata
- 日本では、本州、四国、九州に分布し、 海外では、中国、台湾、ヒマラヤ東部、インドシナ等に分布します。 本州での分布は、以前は近畿以西とされていて、 1960年頃までは大阪での記録はごくわずかでしたが、 1990年頃から良く見られるようになり、最近では関東地方にまで分布が広がっています。
- 翅の表面は、オスでは、ほぼ全体が深い紫色であるのに対して、 メスは翅の中央部が明るい紫色に輝いています。 翅の裏面は、オス・メスとも薄い褐色で、色の濃い斑紋が多数ならんでいます。 後翅には細い尾状突起が1対あります。同じ属のムラサキシジミ(N. japonica)とは、 前翅に丸みがあることと、後翅に尾状突起があることで区別できます。
- 幼虫の食餌植物は、ブナ科のマテバシイ属のマテバシイとシリブカガシです。 本来の自生地は、マテバシイは沖縄~九州、シリブカガシは近畿以西の本州と九州~沖縄、台湾等です。 両種とも、本来南方系の樹木ですが、 マテバシイは特に各地の街路樹や公園に植栽されること多く、 このことが気候の温暖化とともにムラサキツバメの分布域の拡大の原因になっていると考えられています。
- 大阪南部(泉北・泉南)の自生地のシリブカガシや 公園に植栽されたマテバシイのひこばえの芽や若い葉に卵や幼虫をみることがあります。 また冬期には、成虫で集団越冬しているのに出会うことがあります。 関東地方などでは、春にほとんど成虫が見られないので、 温暖化したとはいえ越冬できる成虫はすくないとおもわれています。 ムラサキシジミの食餌植物も、ブナ科のアラカシやアカガシ、イチイガシなどで、同じく成虫で越冬します。
- ムラサキツバメは、市街地の公園にも進出した、照葉樹林の蝶です。
(2012年10月)
写真1:ムラサキツバメ(大阪府堺市南区鉢ヶ峯)
写真2 ムラサキシジミ(大阪府堺市南区鉢ヶ峯)
写真3 ムラサキシジミ(雌:大阪府堺市南区鉢ヶ峯)
写真4 シリブカガシの花と堅果(花は、9月~10月に咲き、堅果(ドングリ)は1年後の秋に実る。 :大阪府堺市大仙公園:写真では斜め上向きの雄花序、上向きの雌花序と堅果が見えている。)
写真5 シリブカガシの堅果(表面にロウが付着していて粉っぽいが、 磨くと漆器の様な美しい光沢がでる。 堅果の底が少しへこんでいるのは、マテバシイと共通の特徴:堅果はえぐみがなくて食べられる。)
撮影と解説者紹介:
土井 雄一(どいゆういち) ・・ FIO会員
小学校時代から昆虫採集を始め、蝶を求めて各地の野山を訪ねる中で、 花の美しさにも魅せられて写真撮影に熱中。 森林インストラクター。