土井さんの「野山の花と蝶を訪ねて」
私がこれまでに訪ねた野山で出会った花や蝶たちを、思いつくままに紹介していきます。 今回は「ザゼンソウ」を紹介します。
【№5】ザゼンソウ(座禅草)
サトイモ科 ザゼンソウ属
学名 Symplocarpus renifolius
- 日本では北海道・本州に分布し、日本海を取り囲む、朝鮮・アムール・樺太にも分布します。 北米東部に分布しているアメリカザセンソウ(S. foetidus)の変種(S.f. var. latissimus)と取り扱われることもあります。 本州では太平洋側まで分布し、近畿地方では滋賀県高島市今津が有名で、分布の南限とされています。
- 仏炎苞(ぶっえんほう)と呼ばれる中の花序を包んでいる大きな苞の色は、 変異が大きく、暗紫色~緑・黄色の様々な色が見られ、緑色の濃い花はアオザゼンソウと呼ばれています。 その仏炎苞に囲まれた花を、袈裟を着て座禅を組む僧侶の姿に見立てて、 ザゼンソウ(座禅草)、また、別名で達磨大師をイメージしてダルマソウ(達磨草)と言われています。
- 花は、標高の低い地域では、2月~3月頃に咲きますが、標高の高い尾瀬ヶ原のような場所では、 湿地で同じサトイモ科のミズバショウと一緒に、6月頃に見られます。
- 仏炎苞の中にある花序の色は地域変異があり、日本海側の多雪地域では赤紫色が主体で、太平洋寄りの地域では、黄色が主体となることが最近報告されています1)。
- 花は、悪臭があり発熱することでも知られています。 臭いは、花粉を媒介するハエ類をおびき寄せるためと考えられますが、 発熱する理由はよくわかっていません。 氷点下の外気温でも仏炎苞内部の花序の表面温度は20℃ほどの温度を保っているとの報告があります。 発熱する植物は、サトイモ科・ソテツ科・ハス科など、12科の植物で知られていますが、 寒冷な環境下で発熱し、その体温を調節できる恒温性を有する植物は, ザゼンソウと近縁のナベクラザゼンソウ(S. nabekuraensis)以外には知られていません2)。
- 花後に葉が大きく伸びて40cmほどになり、その頃は、初夏になっています。
- 早春の湿地で、熱い思いを秘めて静かに座禅をして、瞑想しているザゼンソウの花は、 本格的な春の訪れが近いことを知らせてくれます。
(参考文献)
- 1)K. Otsuka, C. Suyama, & K. Ueda, Journal of Japanese Botany 86: 156-160 (2011)
- 2)K. Otsuka, T. Hamada & K. Ueda, Journal of Japanese Botany 86: 224-229 (2011)
(2012年3月)
写真1 ザゼンソウ(尾瀬ヶ原 6月:仏炎苞は暗紫色、花序は赤紫色)
写真2 ザゼンソウ(群馬県富士見村沼の窪 3月:仏炎苞は暗紫色、花序は黄色)
写真3 ザゼンソウ(埼玉県横瀬町松枝 3月:仏炎苞が緑、花序は黄色)
写真4 ミズハショウと一緒に咲くザゼンソウ(尾瀬ヶ原 6月)
撮影と解説者紹介:
土井 雄一(どいゆういち) ・・ FIO会員
小学校時代から昆虫採集を始め、蝶を求めて各地の野山を訪ねる中で、 花の美しさにも魅せられて写真撮影に熱中。 森林インストラクター。