タイトル

土井さんの「野山の花と蝶を訪ねて」

 私がこれまでに訪ねた野山で出会った花や蝶たちを、思いつくままに紹介していきます。 今回は「ツルリンドウ」を紹介します。

【№12】ツルリンドウ(蔓竜胆)
       リンドウ科ツルリンドウ属
       学名 Tripterospermum trinervium

  • 北海道、本州、四国、九州に分布する、つる性の多年草です。 大阪では、里山~山地で普通に見られる種ですが、標高の低い里山では数は減っています。 つる植物ですが、茎はあまり長く伸びず、高い所まで巻きあがることはありません。 明るい二次林や植林地などの下草として生育し、地表を這っていることがおおく、 小さな植物などに巻きついて立ち上がっていることもあります。
  • 9月から10月に花を開き、美しい赤色の果実が実ります。 花の色は淡い紫色で、ちいさくて下向きに咲き目立つ花ではないので、 赤い果実をみてはじめて気づくことがあります。 10月頃は花と実が同時にみられます。
  • 花冠は、大きく5裂して少し小さい副片(副花冠)が間にあります。 花を観察しているといろんな段階の花が見られ面白い花です。
    ① 雄しべは5本で、咲き始めは中央の花柱(雌しべ)を取り囲んでいます。:写真1
    ② 雄しべから花粉が先にでます。(雄性先熟です。):写真2
    ③ 次第に、雌しべが熟し、柱頭が2股に分かれて伸び、ゼンマイ状に外側に巻きます。 このとき雄しべは、外側に開きながら、内側に曲がって自家受粉をさけているようです。:写真3
    ④ その後再び雄しべが柱頭に寄ってきて、 リンドウ属と同じように他家受粉できなかった場合に自家受粉も行うとされています。 この時点では花粉はごく少なくなっています。 わずかに残った花粉で受粉できるのでしょうか?:写真4、5
    リンドウ科の他の種でも、種による違いはありますが、花に似た変化がみられるので観察していると自然の精妙さに感動します。
  • 上向きの赤い果実は液果(成熟した時に肉厚で汁気の多い果肉に包れる果実)であることが、 蒴果のリンドウ属とは異なる点です。 赤い実は、ラグビーボール型で先端に花柱がのこっています。 美味しそうな実ですが生食はできず、果実酒にされるそうです。
  • ツルリンドウの赤い実が目立つと、秋は終わりに近づいています。

(2012年11月)

尚、今回は学名としてTripterospermum trinerviumを使用しました。 多くの図鑑類で使われている、学名のT.Japonicumと異なっていますが、 この学名はシノニム(異名)とされています。 詳細は、米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList), http://bean.bio.chiba-u.jp/bgplants/ylist_main.html をご確認ください。


写真1 ツルリンドウの咲き始めの花(大阪府和泉葛城山:雄しべが柱頭を取り囲んでいます。)
ツルリンドウ1

写真2 ツルリンドウの花(大阪府和泉葛城山 雄しべから花粉がでて、雌しべの先(柱頭)がしだいに2股に開いてきます。)
ツルリンドウ2

写真3 ツルリンドウの花(大阪府和泉葛城山:ピンクの花柱が2股に大きく開き内側に巻いています。雄しべは開いています。)
ツルリンドウ3

写真4 ツルリンドウの咲き終わりが近い花(大阪府和泉葛城山:再び雄しべが柱頭に寄ってきています。)  
ツルリンドウ4

写真5 ツルリンドウの花柱と雄しべ(大阪府和泉葛城山  花冠をとり確認した柱頭(ピンクで渦巻き状になっている)と雄しべ(緑色)) 
ツルリンドウ5

写真6:ツルリンドウの実(大阪府和泉葛城山:花柱がのこっています。果柄は大きく伸びています。)
ツルリンドウ6

撮影と解説者紹介:

土井 雄一(どいゆういち) ・・ FIO会員

土井さんの写真 小学校時代から昆虫採集を始め、蝶を求めて各地の野山を訪ねる中で、 花の美しさにも魅せられて写真撮影に熱中。 森林インストラクター。