タイトル

土井さんの「野山の花と蝶を訪ねて」

 私がこれまでに訪ねた野山で出会った花や蝶たちを、思いつくままに紹介していきます。 今回は「ヒオドシチョウ」を紹介します。

【№4】ヒオドシチョウ(緋縅蝶)
        タテハチョウ科 タテハチョウ亜科
        学名 Nymphalis xanthomelas

  • 国内では、北海道~九州、海外ではヨーロッパからヒマラヤ、台湾・韓国まで広く分布する蝶です。ただし、日本産は、N. x. japonica 亜種とされています。
  • 「緋縅蝶」と呼ばれています。「緋縅」というのは、緋色(深紅色)の糸や皮紐で小札板(鉄板)を上下に結び合わせた鎧の「縅(おどし)」のことらしいのですが、翅の表の色が緋色であることと、黒い模様も何となく鎧に似ていることから名付けられたのでしょう。翅の青い縁取りが粋です。裏翅は地味な色で、雑木林や落ち葉の山で翅を閉じると目立たず、どこにいるかわからなくなります。
  • 2月~4月頃に山を散策すると、どこからか現れ、日だまりで休む姿が見られます。成虫で越冬するので春先に見られる個体は翅が痛んでいます。母蝶は4月頃、食樹のエノキの開芽前に産卵します。芽の周辺に数十から百個以上も卵を産み、孵化した幼虫は、エノキが丸坊主になるほど食べ尽くすことがあります。蛹は6月頃羽化しますが、1ヶ月ほどで休眠(夏眠)して越冬するので、7月以降は姿をほとんど見られません。
  • 昔は、大阪の市街地でも、幼虫、蛹が鈴なりになったエノキを見たものですが、最近は郊外に行かないと成虫にも出会うことがありません。
  • 春先のヒオドシチョウは、冬との戦いに疲れた古武士が最後の力を振り絞っているようで、思わず励ましたくなります。

(2012年2月)

写真1  ヒオドシチョウ(夏眠前、吸水中:日光 小田代ガ原 6月)
ヒオドシチョウ1

写真2 ヒオドシチョウ(越冬後:群馬県鍋割山 3月)
ヒオドシチョウ2

写真3 ヒオドシチョウ(裏面:栃木県雨巻山 3月)
ヒオドシチョウ3

撮影と解説者紹介:

土井 雄一(どいゆういち) ・・ FIO会員

土井さんの写真 小学校時代から昆虫採集を始め、蝶を求めて各地の野山を訪ねる中で、 花の美しさにも魅せられて写真撮影に熱中。 森林インストラクター。