土井さんの「野山の花と蝶を訪ねて」
私がこれまでに訪ねた野山で出会った花や蝶たちを、思いつくままに紹介していきます。 今回は「セツブンソウ」を紹介します。
【№13】セツブンソウ(節分草)
キンポウゲ科セツブンソウ属
学名 Eranthis pinnatifida
- 関東以西の本州に分布する日本固有種です。 主として石灰岩地の落葉広葉樹林の林床でみられます。 各地でレッドリストに掲載される希少種で、大阪府でも絶滅危惧Ⅰ類に指定されています。 人気のある花なので、植物園等ではよく植えられています。 近畿では、伊吹山、鈴鹿山地や兵庫県北部の石灰岩地で有名な自生地があります。
- 早春(2~3月)の節分の頃から花が咲くので、節分草と名付けられていますが、 山地では3月にならないと咲きません。 春にもっとも早く咲く草本の一種で、いわゆるスプリング・エフェメラルです。 落葉広葉樹が葉を広げた5月頃に種を残して地上部は枯れてしまいます。 以前紹介したフクジュソウは、同じような石灰岩地でセツブンソウより少し早くから咲きますが、 微妙に好みが違い、同じ地域でも少し違う場所に咲いています。 西日のあたらない北斜面にセツブンソウは見られることが多いようです。
- セツブンソウは、地下にある塊茎から、落ち葉をかき分けて、数本の茎を伸ばし、 大きな切れ込みがある苞葉の先に2cmほどの白色の花をつけます。 5枚の花弁の様にみえるのが萼片で、白く透けてみえる美しい花です。 萼片は、5枚が基本で6枚以上の花もよくあります。 花びらは、花芯周辺にあり一見雄しべのように見える黄色の部分です。 良く見ると花弁は筒状で、先端が2~4本に分かれていて蜜腺があり、 筒のくぼみに蜜が入っています。 花弁の内側には、多数の青紫色の雄しべがあり、さらに中心に2~5本のピンクの雌しべが見えます。 セツブンソウは、2種類の受粉形態を持つといわれています。 蜜を分泌してハチを呼ぶ虫媒花でありと同時に、花粉を飛ばして受粉する風媒花でもあるそうです。 早春で虫がすくないので、風も利用しているのでしょう。 開花が進むと雄しべから花粉が出て、雌しべが上に伸びてくるので雄性先熟と思われます。
- 萼片が花弁のようになり、花弁が棒状になり蜜腺がある花として、 同じキンポウゲ科のシロカネソウ属(Isopyrum属:トウゴクサバノオ等)や オウレン属(Coptis属:ミツバオウレン等)の植物があります。 いずれも小さいけれども黄色い花弁のアクセントが魅力的な春の花です。
- 早春に咲く花は、樹木の花を含め黄色い花が多く、冬枯れの林の中で目立ちます。 その中でセツブンソウは、白い花の黄色い花弁の蜜腺で虫たちにアピールしています。
(2013年1月)
参考)今回は学名としてEranthis pinnatifidaを使用しました。 図鑑類によっては、Shibateranthis pinnatifidaが使われています。 セツブンソウを「球茎ができること、芽生えの子葉が1枚であること」 などの理由でEranthis属から分けて、 Shibateranthis属とする見解もあるようですが、 このコラムでは、標準和名、学名はYListに準拠しています。 米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList), http://bean.bio.chiba-u.jp/bgplants/ylist_main.html をご確認ください。
写真1 セツブンソウ(埼玉県小鹿野町:地下にある塊茎から、花を付けた茎を伸ばしている。 花の下部に見えるのが苞葉。)
写真2セツブンソウの花の拡大(埼玉県小鹿野町:花の外側から、苞葉、萼(白)、花弁(黄色)、 雄しべ(青紫)、雌しべ(ピンク)が見える。 黄色い筒状の花弁は、大きくY字型に2股に分かれ小さい突起との間の底に蜜がある。 雄しべは花粉をだし、雌しべは伸び出している。)
写真3 セツブンソウの花(栃木県栃木市星野:萼片の枚数は変異が大きく、 この写真では5枚と6枚の花が写っている。)
写真4 トウゴクサバノオ(Isopyrum trachyspermum)の花 (大阪府岩湧山:8mmほどの小さい花の中の黄色い花弁の先は軍配型で蜜がある。)
写真5 ミツバオウレン(Coptis trifolia)の花 (福島県尾瀬沼:中部地方以北の亜高山帯で見られる。 10mmほどの花の中にある黄色い花弁の先端は浅い杯状になっていて蜜がある。 中心に黄緑に見える雌しべがあり、その外側にある白い雄しべは大きく広がっている。)
撮影と解説者紹介:
土井 雄一(どいゆういち) ・・ FIO会員
小学校時代から昆虫採集を始め、蝶を求めて各地の野山を訪ねる中で、 花の美しさにも魅せられて写真撮影に熱中。 森林インストラクター。