タイトル

土井さんの「野山の花と蝶を訪ねて」

 私がこれまでに訪ねた野山で出会った花や蝶たちを、思いつくままに紹介していきます。 今回は「ルリタテハ」を紹介します。

【№14】ルリタテハ(瑠璃立羽)
       タテハチョウ科ルリタテハ属
       学名 Kaniska canace

  • 日本全土と、国外では、朝鮮、台湾から、東アジア、南アジア一帯に広く分布しています。 日本が分布の北東限になります。 屋久島以北の日本本土で見られるのは、本土亜種(K. c. no-japonicum)でトカラ列島以南は、 琉球亜種(K. c. ishima)とされています。 分布の中心は、東南アジアにあり、日本の2亜種を含め15亜種ほど知られており、 北に分布を広げてきた蝶の一つと思われます。大阪では、山地、里山や市街地でも見られます。
  • 翅の表面には、濃紺の地色にルリ色の筋と白い斑紋があります。 このルリ色の筋がカタカナの「ノ」に似ていることから、 本土亜種の学名のno-japonicumが命名されたそうです。 翅の裏面は、暗褐色で樹皮や落ち葉に似た細かい模様があります。
  • 成虫は、大阪付近では年に 2-3回(6-7月、8月、10月)の発生し、 冬は成虫で越冬します。 早春の暖かい日には、キタテハや以前に紹介したヒオドシチョウ等と同様に、いち早く飛び始めます。 越冬した成虫もヒオドシチョウほど、翅の損傷は大きくないのは、 秋に羽化した成虫がすぐに越冬するためだと思われます。
  • 成虫で越冬する蝶は、日本では30種(大阪では14種)ほど知られていますが、 どこで越冬しているのかは、よくわかっていない種がおおいです。 食草とは無関係な場所で翅を閉じて越冬していることが多いので目立たず、 なかなか見つけることはできません。 ルリタテハでは、 水田の畦や水路に渡してある板の裏を好んで越冬しているという観察記録が報告されています1)。 板の裏で斜めになって止まっているそうです。 このほか、崖の縁や岩の下面、浅い土中などでの越冬が観察されています2)。 冬の観察会で捜してみると意外なところに隠れているかもしれません。
  • 幼虫の食餌植物は、日本産のタテハチョウ科の蝶では唯一の単子葉植物で、 主としてユリ科(APG分類ではサルトリイバラ科)のサルトリイバラやシオデ等です。 街中では庭に植栽されたホトトギス(APG分類でもユリ科)で幼虫が見られることがあり、 市街地の公園等でも以前はよく見られましたが、残念ながら最近は少なくなりました。
  • 早春の里山の日だまりで休むルリタテハ。 南方的な瑠璃の帯が遙か南から分布を広げてきたルーツを語っています。

(2013年2月)

1)桜谷保之、南大阪の昆虫 第3巻4号 P61-65(2001)
2)原色日本昆虫生態図鑑Ⅲチョウ編(保育社、1972)


写真1 ルリタテハ(堺市大蓮池にて:9月)
ルリタテハ1

ルリタテハ(堺市大蓮池にて;9月 翅の裏面)
ルリタテハ2

写真3 ルリタテハ(群馬県仙人ヶ岳:3月、日光をあびてじっとしている。 越冬後であるが比較的翅の破損は少ない。)
ルリタテハ3

撮影と解説者紹介:

土井 雄一(どいゆういち) ・・ FIO会員

土井さんの写真 小学校時代から昆虫採集を始め、蝶を求めて各地の野山を訪ねる中で、 花の美しさにも魅せられて写真撮影に熱中。 森林インストラクター。