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佐藤さんのお役立ち気象歳時記

大西風(おおにしかぜ)

図

2011年1月は記録的な寒冬・少雨で、特に月後半は強い冬型気圧配置が続いた。17日の天気図では、大陸に優勢な高気圧、アリューシャンの南に発達した低気圧、その間の縦縞模様は見事である。東シナ海から日本のはるか東海上まで4千キロに渡って、強い西風の吹いていることが分かる。何日も吹き続けるこの西風を、昔は大西風と言って恐れた。江戸時代、大坂から江戸へ向かう廻船が時化(しけ)に遭って舵を失い、西風と黒潮に流されて東へ向かい太平洋の真っただ中に放り出された。その後、北の低気圧の反時計まわりの渦に巻き込まれてアリューシャン列島に漂着し、奇跡的にロシア人に助けられたこともあった。このあたり、井上靖著「おろしや国酔夢譚」序章に詳しい。

さて、『烈しい西風が目に見えぬ大きな塊をごうつと打ちつけては又ごうつと打ちつけて皆痩(やせ)こけた落葉木(らくようぼく)の林を一日苛(いぢ)め通した。木の枝は時々ひうひうと悲痛の響を立てて泣いた。短い冬の日はもう落ちかけて黄色な光を放射しつつ目叩(またた)いた。さうして西風はどうかするとぱったり止んで終ったかと思ふ程静かになった。・・・』、これは、長塚節著「土」の冒頭の文章で、関東の風土と西風の様子が良く表されている。 海の上と異なり、陸では「西風は日暮れまで」のことわざがある。 図 昨年1月後半の大阪市内と生駒山(626m)の風の変化をみると、市内では確かに夜間風が収まっている。 一方、生駒山では、むしろ夜間のほうの風が強くなっている。一般に風は上空ほど強く吹いている。 日中は地表が暖められ対流が起こって上下の空気が混じり合う。 結果として、上空の強い風が地上に降りてくるため、地上の風は強まり上空の風は弱まる。 夜間は地上の空気が冷えて混合はなくなり、風は収まる。

大西風の吹く季節がもうすぐそこまでやってきている。

(2011年12月)

執筆者紹介:

佐藤 英雄 (さとう ひでお) ・・ FIO会員、事務局担当のひとり

佐藤さんの写真 民間の気象会社に34年間勤務し、気象の観測・調査・設計、解説・予測などに従事。気象予報士でもあり、森林インストラクターの眼からみた「気象」のお役立ち情報を、月1回のペースで、わかりやすく解説します。