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佐藤さんのお役立ち気象歳時記

台風の中心気圧

昨年10月、19年振りに中心気圧900 hPa未満の台風が現れ、話題となった。この台風の中心気圧は890 hPaまで下がったが、これだと1990年、白浜に上陸前、史上最大級として騒がれた台風9019号以来20年振りのこととなる。

図 さて、私には「洞爺丸」、「狩野川」、「伊勢湾」、「第二室戸」と台風の追っかけをして過ごした少年時代があった。実際、高校1年になった私は、毎晩気象通報を聞きながら、9月8日日本のはるか南東、マーシャル諸島近海で発生し、16日室戸岬に上陸、日本海を北上した台風6118号(第二室戸台風)を、ウォッチし続けた。この台風の最低の中心気圧は880hPa、これは、伊勢湾台風の895 hPaを上回り、当時最低の狩野川台風の877 hPa次ぐ低さであった。


16日には大阪市街地を高潮が襲った。17日朝日新聞朝刊にはグランドホテル前の道路よりも高く、堂島川に浮かぶ船が写っている。以後50年経つが、大阪でこの時の高潮(平均海面+3m)を上回ったものはない。なお、その後堤防はかさ上げされた。

写真 さて、900 hPa未満を観測した台風が現れなくなったのは、1987年の観測方法の変更が大きそうだ。それまでは、米軍の航空機が台風の眼に突っ込みドロップゾンデを落として、海面の気圧を観測していた。それが気象衛星画像に置き換わったからである。台風の眼の回りの雲の様子すなわち"見た目"と実測された中心気圧を対応づけるドボラック法の研究が進み、危険で金のかかる航空機による観測は取りやめとなった。実際、はるか南海上の台風の中心気圧が880 hPaであろうとなかろうと猛烈な台風には違いなく、船舶の対応に変りはない。がしかし、これでは"実測"と"推測"の区別がつかないのではないか。事実、昨年の台風で890 hPaまで下がったのは、米軍機による実測値があったためらしい。

以上、ちょっぴり割り切れない思いの台風マニアのつぶやきである。

執筆者紹介:

佐藤 英雄 (さとう ひでお) ・・ FIO会員、事務局担当のひとり

佐藤さんの写真 民間の気象会社に34年間勤務し、気象の観測・調査・設計、解説・予測などに従事。気象予報士でもあり、森林インストラクターの眼からみた「気象」のお役立ち情報を、月1回のペースで、わかりやすく解説します。