佐藤さんのお役立ち気象歳時記
木枯らし1号
こがらしの地にも落とさぬしぐれかな 去来
木枯らしの吹く季節が近づいてきた。木枯らし(凩と書くことも)とは、木の葉を吹き散らし、木を裸にしてしまうような強い風、晩秋から初冬にかけて吹く強い風のことである。俳句では冬の季語になっているが、古来「こがらしは秋冬の風、木枯なり。ただし、木枯の秋の初風とも詠めり」とあって、秋から冬への季節の移ろい、そしてとまどいが感じられておもしろい。
気象庁では10月半ばから11月末日までの間で、最初に西高東低の冬型の気圧配置となって西北西~北の風が8m以上吹いたとき、「近畿地方で木枯らし1号が吹いた」と発表している。もっとも、「木枯らし1号」が発表されるのは東京と大阪のみである。九州とか、他の地域で木枯らしが吹かないはずはないのだけど、そうなっている。「木枯らし1号」が吹いたとなるとメディアは格好の絵を求めて街に繰り出す。まるでメディアへのサービスに発表しているようなものである。
最近の5年間の「木枯らし1号」を見ると、2006年が11月7日、07年・08年が11月18日、09年が11月2日、10年が10月26日となっている。見事に、二十四節気(にじゅうしせっき)の立冬(11月7日ごろ)と一致している。
2006年11月7日の「木枯らし1号」の様子を、気象資料で見てみよう。
11月7日日中、10m/sの西風が吹いたあと気温はぐんぐん下がり、前日夜20℃近くあった気温は、当日夜には10℃近くまで下がっている。一方、気温と湿度、両方の情報を合せも持ち、空気の質を見るのにちょうど良い「露点温度」を見ると、西風の強まりとともに温度が下がっている。南の海上から吹き込む暖かく湿った空気から大陸からの冷たく乾いた空気への入れ替りを示している。
音たてて立冬の道掃かれけり 岸田稚魚
(2011年10月)
執筆者紹介:
佐藤 英雄 (さとう ひでお) ・・ FIO会員、事務局担当のひとり
民間の気象会社に34年間勤務し、気象の観測・調査・設計、解説・予測などに従事。気象予報士でもあり、森林インストラクターの眼からみた「気象」のお役立ち情報を、月1回のペースで、わかりやすく解説します。